今月の樹木 (2019年3月)
2019年 03月 25日
アブラチャン(油瀝青 落葉小高木 クスノキ科)
花期3月 果期9~10月
植物の名前を見ていると、なるほどと思わせるものや、なぜこんな名前と思わせるものが少なからず見受けられます。思いつくままに列挙すれば、ヘクソカズラ(屁糞葛)、バクチノキ(博打の木)、ショウベンノキ(小便の木)、イヌノフグリ(犬の陰嚢)、シモバシラ(霜柱)、ハキダメギク(掃溜菊)、ネコノチチ(猫の乳)など。
標準和名でこれですから地方名となると数えきれないほどありそうです。名の通ったものでいくつか挙げると、ナンジャモンジャ(標準和名ヒトツバタゴ)、ヨグソミネバリ(夜糞峰榛標準和名ミズメ)、ウシゴロシ(牛殺し 標準和名カマツカ)など。
これらは花の印象や実の形、においなどが名前の由来になっているようですが、物騒なものや声に出すとはばかられるようなものもあって、そのような名前をもらった植物にとってはとんだ迷惑でしょう。
そんな中でアブラチャンとはなんとも可愛い名前です。アブラクンでもアブラサンでもなくアブラチャンとなったのにはちゃんとした理由があって、実に多く含まれる油分が関係しているようです。日本の古い塗装技術に油と松脂を混ぜて塗る「チャン塗り」というものがあり、チャンは漢字で瀝青と書くようで、この瀝青に由来するようです。
瀝青を辞書で引くと天然アスファルト・コールタール・ピッチなどの種類があり、防水剤や防腐剤などに用いられているとあって、どうやらここのところがアブラチャンとつながったと思われます。余談ですが教科書に出ていた瀝青炭とはこの瀝青を含む比較的柔らかい石炭ということを今回知りました。
花の時期には良く似た花のダンコウバイもあって見分けが付きにくいこともありますが、アブラチャンには花序(花の集合体)に比較的長い柄があり、ダンコウバイは花序柄が短くて花が枝に直に付いているように見えます。
実は熟してくると果皮が割れて大きな種が現れます。種の油は灯火用や工業油として利用され、材はしなりとねじれに強いことからカンジキの輪に重宝されたそうです。
この木をウシゴロシと呼ぶ地方もあるようですが、カマツカ同様に材の性質を活かして牛の鼻輪に利用されたことでそのように呼んだものと思われます。
なお、鼻輪は牛を殺す目的でするものではなく、鼻輪を付けることにより牛の動きを制御できることからウシゴロシというようになったというのが小生の解釈です。