今月の草本(2018年04月)

菅さん提供

クマガイソウ(熊谷草 多年草 ラン科)           

                          花期45月 

 その出来事は最近目にしたエビネの花の状況を見るため山道を歩いている途中のことでした。この辺りにもエビネが有るのではないかと思いながら谷向かいの山の斜面を見渡していると突然、白地に薄紫色の幾つもの花が一斉にこちらを見下ろしている光景が目に飛び込んできました。

 その花は写真で見たことのある蘭の花で、アツモリソウか良く似たクマガイソウのどちらかだということは遠目にもすぐに分かりました。どちらの花かは知識不足で判断つきかねましたが、ともかく間近で見たいとはやる気持ちを抑えきれず、急な斜面を急いで這い上がりました。

 その途中、見上げた先に細かいひだを持った大きな葉が木漏れ日を受けて輝いているように見え、そこで一瞬歩が止まり、反射的に脳裏に浮かんだのは、アメリカの古い映画「七年目の浮気」でマリリン・モンローの細かいプリーツの入った白いドレスが地下鉄の通気口から吹き上がる風でふわっと浮き上がる有名なシーンでした。

 その後は花に駆け寄り、興奮冷めやらぬ手でカメラのシャッターを幾度も切ったのは言うまでもありません。

 帰宅後に調べてみると葉と花の形から、この草花はクマガイソウと判明しました。身近な場所で見られる可能性のある花と分かっていれば予備知識としてアツモリソウとクマガイソウの違いは頭にあったでしょうが、何度も通ったことのある道からさほど遠くない場所で目にするとは思ってもいず、それこそ熊が居そうな深い山でしか見ることができない花と思っていましたので、目にした時の感動は今でも鮮明に覚えています。

 この花について詳しく調べたところでは、クマガイソウの学名Cypripedium japonicumCypripediumの語源になったCyprisは「女神ビーナス」に由来するそうです。そうするといささかこじつけめいてはいますが、信奉者から永遠のビーナスと呼ばれたマリリン・モンローをこの草花から想起したというのは自然の成り行きだったように思えます。

 絶滅危惧種で天然記念物級の貴重な花に出会えたことは大変幸運でした。どの花も同じ方向を向いて咲くというクマガイソウの特徴も出会えた後に知りましたが、その姿は、女神たちが山野草をこよなく愛する一人のおじさんに「私たちがここにいますよ」と微笑みを投げかけてくれていたのだと今では密かに思っています。




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by str1685 | 2018-04-20 07:54 | Comments(0)