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今月の樹木(2017年12月)

菅さん提供


カキ(柿 落葉高木 カキ科)          

                            花期56月  果期1011

 柿といえば日本の秋を代表する果物の一つで、かつては山里の民家の庭には必ずといっていいほど植えられていました。甘いものが少なかった時代には手間のかからない貴重な食べ物だったと思います。

 晩秋ともなると、枝に付いたままの朱色の柿の実はいよいよ赤みを増して熟柿(じゅくし)となってきます。渋柿も熟柿になれば渋が抜けて甘くなり、ぷよぷよとゼリー状になって今にもはちきれそうな熟柿は昔の子供のこの季節のご馳走でした。

深い落葉を踏みしめ、沢沿いの細い山道を歩いていて1本の柿の老木と出会ったのもそんな季節でした。ゴツゴツした幹の瘤、節くれだった太い枝が風雪に耐えてきた年月を感じさせます。

そこからさらに歩を進めるとすぐに朽ち果てた炭焼き窯が目に入りました。窯のドーム状の天井は崩れ落ち、焚口の石積みがかろうじて炭焼き窯であったことを(うかが)わせます。

 山歩きをしているとこういった炭焼き窯の跡にしばしば遭遇することがあります。草生(くさむ)してはいるが原形をとどめているもの、わずかにすり鉢状のくぼみだけを残しているものなど様々ですが、そこにはかつて山に密着して生活していた人の匂いのようなものが感じられ、言うなれば、城跡などの遺跡に接した際にそこはかとなく湧き起こる感慨にも似た思いで出会うごとに写真に収めています。

 炭焼きは原木を切り出した後に長さを揃える玉切り、窯詰の作業と続きますが、山の急斜面を重い原木を運んだり、窯の中では中腰の姿勢を強いられたりと大変な仕事です。今のように便利な道具が無かった時代には木の一本を切るにもかなりの労力を要したでしょうから昔は今以上に重労働だったはず。火を入れてからは一昼夜は炊き続ける必要があることから、人里から離れた山では泊まり込んでの炭焼きもあったそうです。

 ここで炭焼きをしていた人が熟柿を口にすることがあったとすれば、それは窯詰が終わって焚口から火を入れ、過酷な労働の一日が終わろうとする頃、窯に十分に火が回って一息ついた辺りだったのではないでしょうか。

 漆黒の闇の中、焚口の炎に照らし出された透き通るような熟柿にかぶりつく瞬間は至福の(とき)だったに違いありません。
 帰路をたどりながら、そんな情景を思い描いた晩秋の山歩きの一日でした。


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by str1685 | 2017-12-12 08:05 | 今月の樹木

里山の整備・管理活動を行い、自然に親しみながら会員の親睦と健康維持などを目的としています。


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